もうひと月ほど前の話になるのですが、TOKYOポエケットにあわせて詩を2編書いているのでそのお知らせ。

まず、「あなたにパイを投げる人たち」発行の同人誌『コレラに小麦粉を塗りたくる者ども』収録、「水色の水の色」という詩です、冒頭部のみ引用させてください。

 先輩がプールで溺れた、

 定期的に、知らない海岸の夢を見るんだ、おれ、
 ピンクの毛を生やした一つ目の怪獣の人形とか、星座の剥製か駅の透明標本みたいなゲーム筐体の基盤とか、ポルノビデオで女が膣に突っ込んでそうなイボつきの歯ブラシとか、理科の教科書に載ってるカラフルな動脈静脈そっくりの細いケーブルの束とか、いっつも違うものが流れ着いて、毎回新しい遊びができるから、飽きなかったんだけど、最近、なにもなくってさ、青白い波が打ち寄せるだけでさ、

 春に水族館へ連れていってもらったとき、少し喧嘩したよね、先輩はクラゲの水槽の前から離れようとしないから、わたしは退屈だったし、へんな夢の話を聞きながら、世界中の水がこんなふうに水色だったら、きっと恐怖して、脱水症状に陥って、死んじゃうだろうなって、
 水色なんて嘘だよ、
 怖くなったから早く帰りたくなった、とは、言わなかったけど、


こちらの同人誌は、わたしに連絡をいただければ、お送りいたします。送料込みで600円です。関東周辺にお住まいの方で、直接手渡しできる場合は、500円です。メールアドレスはココに載っているので、お気軽に連絡ください。去年制作した「閉熱線」の同人誌『青の独白』も同じ値段、手段で頒布しています。よろしくお願いします。

もうひとつは、「あるところに、」のフリーペーパー、『あるところに、vol.2』に「ノンプレイヤーシティ」という詩を載せてもらっています。こちらはネットでも全編読めるのですが、冒頭部だけでもここで紹介させてください。

 インサートユアコイン、電車を降りた瞬間に数フレームの硬直があって、ガードが間に合わず赤ゲージ、毎年夏がくる度に、去年はなぜ夏を乗り切れたのだろうと疑問に思う、同じ車両に乗っていた女の子が指の絆創膏を急に剥がしはじめて、うっかり見入ってしまったことによる致命傷、左手で持ったスマホの画面をさっきまでつっついていた指に日焼けの跡ができていて、もしかしたらそういう流行りなのかもしれない、とか考えているあいだに、一方的に熱になぶられていた、発車メロディ、背中でドアが閉まる、小学生の頃、友達に借りたゲームカセットの裏に絆創膏が貼ってあって、母親の文字で名前が書かれてあったのを、ホームの階段を降りながら思い出していた、
 ディーしました、ラインやってますか、おこだよ、わかる、それな、ドコドコドコドコ、駅前がキャラクターオーバーしても人は沸き続ける、普段、熱気や熱風や熱狂と同じイントネーションでネットと発音しているはずなのに、ネットの中は涼しそう、サーフもダイブもできるし、夏はそっちへ行けばいいのに、レアドロップ狙いのハンターたちは、ソロプレイでも平気で街へ出てきて部位破壊をしはじめるから、メイド服の客引き弾幕がさらに濃くなって、当たり判定を狭めるスキルの極振りが必須になってくる、靴先のエナメル光沢、ピンクのボーダーニーハイ、 高温になったアスファルトから、蒸発するように空へ昇っていく数字たち、レベリングに夢中になれる時期というものが、ある日突然終わりを迎えて、敵を前にするプレイヤーキャラクターに、モニターの前の自分を見つけてしまったときの、真っ黒に透き通ったあの不安、ロード中の暗転した画面に、自分の顔が映り込むのを気味悪く感じはじめたのはいつからだろう、ゲームボーイをリュックに入れて遊びに出かけていた頃は、ずっと主人公だった、


フリーペーパーなので、どうやら都内各所、様々なところに置いてあるみたいです。詳しくは編集者の佐藤真夏さんのツイッター等(@yomoyamanohara/@aru_tokoro_ni)を見てみると最新情報がわかって良いかも。

というわけで、以上お知らせというか、宣伝でした。

追記。
せっかくなので制作秘話的なアレ。

ポエケットが7月ということで、両方とも夏の詩にしよう、と最初に決めていたのですが、似たようなものになってはつまらないと思って、『コレラに~』に載せる方は、魚屋スイソらしい、ド直球の、魚っぽくて水っぽいものを、『あるところに~』の方には、フリーペーパーということもあって、平均点の取れるような無難なものではなく、100人に1人にでもいいので花丸をもらえるような、一点集中の、尖った、狙い澄ました詩を書いてみました。果たして成功したのかどうかはともかく、結果的に両方まったく違うタイプのものになったので、自分としては満足しています。ちなみに、なんとなくのイメージとしてですが、前者は江ノ島を、後者は秋葉原を舞台としていたり。また、嬉しいことに、知り合いのcaseさんのブログ(ポエケット感想その1/ポエケット感想その3)ででも、取り上げてもらっています。この場を借りてcaseさんに巨大水槽いっぱいの感謝を。そして(主に〆切関連で)ご迷惑をおかけした両編集担当者様、ごめんなさい。詩を書くときはもう少し足元を固めて基本の生活ができている状態になってからにしようと心に誓った魚屋でした。

夏の詩ふたつ

Posted on

2013年8月3日土曜日

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