5月 2013


魚屋スイソによるゲームミュージックコラム「うたうのをやめません」第4回です。
今回はさんからお題をいただきました。

二股がばれたときに流れるゲームミュージック

Mass Destruction - 目黒将司 - ペルソナ3

アトラスの人気RPG『ペルソナ』シリーズですが、3からは学校の仲間や街の住人たちとコミュニティを築き、各キャラクターのサブストーリーを進めつつペルソナ能力を高めるという新システムの採用により、特定の女性キャラクターとの恋愛要素を楽しめるようにもなりました。放課後や休日を共に過ごし、時折会話の中に出現する選択肢の回答次第でコミュニティランク、言い換えれば好感度が上昇していくというさながら恋愛ゲームのようなシステムです。攻略対象である女性キャラクターにはクラスメイトから上級生、部活のマネージャーに生徒会役員と、様々な個性を持つ美女・美少女揃いで、主人公は選り好みすることができるのです。もちろん浮気も二股も可能で、となると当然気まずい展開に遭遇することもあり、複数の女性に手を出していると連日屋上呼び出しなんてザラです。関係がリバースした状態で間違った言い訳をしようものなら最悪ブロークン状態に陥ってしまうことも。そうなるともう本来のRPGとしてのゲーム進行すらままならなくなってしまうほど。しかしより強力なペルソナを生み出すためには全てのキャラクターと仲良くなることが必要であり、問題はいかに修羅場を潜り抜けていくかと言っても過言ではないでしょう。そんな軋轢によるストレスを解消してくれるのがこの「Mass Destruction」という曲です。曲を聴いただけでゲームを知らない人は驚くかもしれませんが、実はこの曲、通常戦闘曲として作中で使用されていて、タルタロス(ダンジョン)の中でシャドウ(敵)と遭遇するとベイベベイベと軽快なイントロが流れ始めるのです。オシャレなファンクハウス系の楽曲ですが、タイトルを直訳すると大量破壊。その名の通り、日々の女性関係のしがらみ諸共、大量虐殺を決め込むことができるという、素敵なバトルテーマなのです。二股がばれようと、浮気に感づかれようと、いっそ吹っ切れてみるというのも一つの手ではないでしょうか。一斉攻撃まで持ち込めば後は軽快な演出とSEと共に戦闘終了を待つのみ。ただし、直接女性を相手にする場合は、背筋の凍りつくようなブフダイン(わたしのことが大事じゃないの?)、感電して何も言い返せなくなるようなジオダイン(どうして嘘を吐くの?)、大惨事が予想されるマハムドオン(相手の女も殺してやる)、最終手段であるメギドラオン(さよなら)での返り討ちには充分ご注意。

Battle In The Jungle - 日比野則彦 - METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER

初代『メタルギア』がMSXで発売されたのが1987年、小島秀夫監督によるプロデュースでその後もシリーズ化は続き、2012年には25周年を迎えました。主流のアクションゲームとは一線を画すステルスアクションというジャンルを確立させた『メタルギア』、プレイヤーは隠密潜入のエキスパートであるスネークとして敵地に乗り込み、ミッションをこなしていくという内容なのですが、多数の警備兵に対してこちらは単身、無闇に突っ込んで戦闘になれば勝ち目はありません。そのためこのゲームでは単純な戦闘力よりも、戦闘を避けて進むスキルに重点が置かれています。敵の死角を掻い潜り、電波障害を生じさせて監視カメラの機能を停止させ、時には変装し、そしてダンボールを被る、作戦を秘密裏に実行していくためには様々な状況に合わせた行動が必要となります。しかしそれでもバレるのがこのゲーム、敵に発見されると「!」の文字の表示と共に特有の効果音が鳴り、BGMも戦闘モード、警戒モードのものへと変わります。こうなってしまえばプレイヤーが取れる選択は逃げるか戦うかの二択ですが、当然ステルスゲームと銘打っている以上、見つかってしまうとまず死ぬように難易度調整されています。『MGS3』の舞台はジャングル、主人公スネークはミッションの進行と同時に、密林でのサバイバルを強いられ、自然に生息するヘビやワニ、時にはネズミやカエルまで食っていかねばなりません。さすがに日常的に爬虫類を食べる程厳しいサバイバル生活を送っている男性はそうそういないとは思いますが、日々の競争社会を生き抜くために、耐え忍ぶために、辛酸を嘗め苦虫を噛み潰す思いでいる方は大勢いると思います。そんな中ですら、いや、だからこそ、浮気や二股をするという猛者もいるわけですが、彼らは常に危険と隣り合わせという一歩間違えば死に直結する状況にいるため、スネークとはある意味非常にシンクロしやすいと言えるのではないでしょうか。なのでカモフラージュ率を上げて身を潜めることに関してはスペシャリストなはずですが、ゲームと同じく、バレるときはバレます。盛大にバレます。そしてその後の対応は、今度はゲームとは異なり、女性相手にCQC(近接戦闘術)を仕掛けたりグレネードボムやアサルトライフルをぶちかますわけにもいかず、この音楽が流れた以上、死を待つ他なりません。パラメディックなんていません。ライフゲージが0になって大佐や少佐の叫び声が聞こえる前に、大人しくMSXの電源を切って身を引くのが賢明でしょう。

TrueLastBoss - 並木学 - 怒首領蜂 大往生

常に人類に挑戦状を送り続けてきたケイブのSTG『怒首領蜂』シリーズからの一曲です。ゲームタイトルは『怒首領蜂』と書いて「どどんぱち」と読みます。『首領蜂』の続編として1997年にアーケードからスタートしたこのゲームは、弾幕系シューティングというジャンルを確立させ、『怒首領蜂 大往生』として一旦完結して尚『大復活』そして2012年には『最大往生』までリリースされるという根強い人気をもち、数々のシューターを魅了してきました。人間の限界を超えることを平気で要求してくるとの声も聞くケイブシューですが、この『大往生』も例に漏れず高難易度で、特にこの曲の流れる2周目のラスボス、緋蜂はシューティングゲーム史上最難関ともいわれ伝説になったほど。弾幕ゲーは本来、その絶え間なく降りかかる弾幕と弾幕のわずかな隙間をドット単位で調整し縫うようにして避けられるよう、向かってくる弾のスピードはややゆるやかなのが一般的なのですが、『怒首領蜂』では無慈悲なほどに速いのです。常軌を逸した数とスピード、その凄まじい破壊力たるや、男の不義を確信したときの女の猛攻に匹敵します。追い討ちに次ぐ追い討ちに対しこちらは残機1、当然ボムすらありません。「ああ」とか「うん」とか「いや」とか「その」とかの1wayショットのみで立ち向かうしかないのです。はじめに「死ぬがよい」と告げてくれることはむしろ優しさなのかもしれません。死ぬなら今のうちです。仮にもし人間をやめる才能と覚悟があったとしても、十中八九このスピードコアがあなたの葬送曲になることでしょう。洗濯機を棺桶に、ご愁傷様。

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魚屋スイソによるゲームミュージックコラム「うたうのをやめません」第3回です。
今回はコーリャさんからお題をいただきました。

旅に出たくなるゲームミュージック

さすらいのテーマ – すぎやまこういち – ドラゴンクエストVI 幻の大地

ドラクエのフィールド曲といえば、勇ましいマーチのようなIIIの「冒険の旅」、物悲しいテーマのIVの「勇者の故郷」、タイトル通り広大な世界を冒険していると実感させてくれるVIIIの「広い世界へ」など、名曲はたくさんありますが、敢えてVIの「さすらいのテーマ」を選んだ、その理由。ドラクエVIは夢の世界と現実の世界、二つのフィールドを行き来して冒険をするのですが、ゲーム内にはその二つの世界を結ぶポイントが幾つかあり、ぽっかりと大地に空いた大穴や、怪しげな井戸、はたまた唐突にフィールドマップに現れる階段(街や城にある階段のマップチップと同じという点が面白い)、これらは主人公パーティーを幻の世界へ、そしてプレイヤーをさらなる冒険の世界へと誘う役割を持っているといえます。序盤はスローテンポ版の「もう一つの世界」がフィールドでは流れているのですが、はじめて別の世界へ足を踏み入れ(正確には落っこちて)「さすらいのテーマ」が流れた瞬間、ヤバイところに来てしまった、もう戻れないかもしれない、という不安とともに、この世界では何が待ち受けているのか、強い敵がいるのだろうか、頼もしい仲間がいるのだろうか、と、誰もが胸をときめかせたのではないでしょうか。旅や冒険とは、遠くの、知らない場所へ赴くということです、そういう意味で、最も今回のテーマにマッチしている曲として、これを選んでみました。この曲を聴きながら外へ出てみてください、もしかするとあなたの目の前にも幻の大地へと続く道が現れるかもしれません。

荒野の果てへ – なるけみちこ – ワイルドアームズ

金子彰史のメディアビジョン開発、SCEから発売されている名作RPG『ワイルドアームズ』、シリーズ第一作目のOP曲です。WAは兵器や古代文明、魔族に守護獣といった王道RPGとしてのファンタジー要素が加えられつつも、全体はウエスタンな雰囲気で統一されています。それを決定付ける大きな要因の一つとしてこの曲、「荒野の果てへ」があります。プレステを起動する度にOP映像が流れるのですが、ゲームを始める前の恒例儀式のようにして、この曲と共に口笛を吹いていた経験のある人も多いのではと思います。この曲との出会いをきっかけに口笛の練習を始めた人もきっといることでしょう。また、WAシリーズのテーマ的な立ち位置として度々アレンジされ、疾走感溢れるダンジョン曲「勇気」をはじめ、同モチーフが使用されたWA3のOP曲とED曲、さらにWA4では戦闘曲にもなっています。このゲームは、紋章の組み合わせによって魔法を自由に作れるのですが、その相性次第ではボスで苦戦を強いられたり、グッズと呼ばれる謎解きアイテムを駆使しなければダンジョンを進めなかったりと、頭を使う場面もあり、行き詰ることも多々あります。しかしそれでもゲームを再開させれば、流れるのはこの曲。そしてプレイヤーはたちまち荒野をさすらう渡り鳥として、再び広大な世界へと旅立って行くことになるです、口笛イン。

CHRONO CROSS ~時の傷痕~ – 光田康典 – クロノ・クロス

もはや特筆する必要のないほどの名曲ですが、今回はテーマ的にも王道なものを選曲しようと思い、臆さずにド真ん中ド直球でいかせていただきます。ゆるやかな木管の旋律からはじまり、画面にはモノローグと共にページの捲られる古い書物、そして水辺に佇む主人公セルジュに切り替わると同時にテンポアップし、パーカッションが鳴り響き、当事のプレステのゲームでは考えられないほど美麗なグラフィックでムービーが展開していきます。RPGは、プレイヤーにとってどれだけの没入感を得られるかどうかが重要だと個人的には思っています、このOPは、一瞬にしてプレイヤーを浚い、『クロノ・クロス』の世界へと連れ去って行く役割を見事に果たしています、RPGのOPとして、これ以上完璧なものはないでしょう。そしてゲームを始め、フィールドに出ると流れるのは「時の草原 ホーム・ワールド」、こちらは前作『クロノ・トリガー』の中世マップBGM「風の憧憬」と同様のモチーフが使用され、同時に、主旋律を奏でる弦楽器の音色は「時の回廊」を彷彿とさせます。前作をプレイしていた人は、思わず息を呑み、時間の経過を忘れ、フィールドに立ち尽くしたまま、コントローラーを握り締めたまま、憧憬に思いを馳せたことでしょう。実際の旅においても、見知らぬ土地であるはずなのに、どこか懐かしさを覚える場所に出会うことがあります、もしかすると自分も、時空を越えて旅をしているのかもれない、そんな突拍子もないことを平気で考えてしまうほどの魅力が、クロノシリーズの音楽にはある気がするのです。

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魚屋スイソによるゲームミュージックコラム「うたうのをやめません」第2回です。
今回はsampleさんからお題をいただきました。

壊れたいときに聴きたいゲームミュージック

Good-bye my earth – 土屋昇平 – ダライアスバースト

タイトーの人気STGである『ダライアス』シリーズの一作、『ダライアスバースト』よりZONE A(1面)の曲です。『ダライアス』といえばサウンドチームZUNTATAの一員、小倉久佳による音楽も評価が高く、『ダライアスII』の「Say PaPa」、『ダライアス外伝』の「FAKE」、『G-ダライアス』の「KIMERA II」など、数々の名曲がゲームと共に誕生してきました。厳かでありながら攻撃的で、しかもどこか毒のあるステージBGMはアーケードゲームの基盤という音色の制限を感じさせないほどでした。しかし2009年に発売した『ダライアスバースト』は、1997年の『Gダライアス』から12年ぶりの新作ということもあり、サウンドはさらに驚くほどの進化を遂げていました。中でもこの「Good-bye my earth」は、グロッケンの鳴る怪しいイントロから一転、突き抜けるようなボイスシンセと激しいリズムトラックスが鳴り響き、プレイヤーを打ち震えさせます。深海に沈んだような廃都市のビル群を背景に、自機のレーザーが飛んでいく様も壮絶で、プレイすればたちまち夢中にならざるを得ないでしょう。サントラ収録の原曲の他に、リミックスCDである『WONDER WORLD』には小塩広和によるロングアレンジの他、鈴木光人によるエレクトロニカアレンジの「出発」、下村陽子によるアコースティックアレンジの「背中に未来」も収録されています。また本作はPSP専用ソフトでしたが、後に『ダライアスバースト アナザークロニクル』がアーケードで登場し、こちらは2画面の大型筐体で、スピーカーも強化されているため、BGMも迫力を増しています。特にメインBGMである「組曲光導」は圧巻の一言に尽きるというもの。「Good-bye my earth」はZONE BとZONE Cで聴くことができます。ちなみにアーケード筐体は外から内側が見えにくい構造をしているので、人目を気にする必要がありません。安心して、思う存分、ヨダレを垂らし、アヘ顔でボムをぶちかましてください。我を忘れ、理性のタガを外したいときは、『ダライアス』がオススメです。

水中レベル WATER MUSIC – David Wise – スーパードンキーコング

はじめてプレイしたテレビゲームは『スーパードンキーコング』でした。1-4が水中ステージで、見とれそうなほど綺麗な緑とピンクの色をしたピラニアに当たるとダメージ判定があるということの理不尽さ、背景になっている砂地の果てしなさ、苔まみれの岩のヒダヒダの気味の悪さ、突然回転しながら襲ってくるまだら模様のタコの意味のわからなさ、当事はすべてが恐怖でした。正直いまでもトラウマです。しかし海というものはやはり魅力的で、画面を見つめながらこのアンビエントなBGMを(ステージをクリアできないがために)延々聴いているとやがては陶酔状態に陥り、同居する恐怖に精神を蝕まれ、そしてゆっくりと気が狂っていくというものです。サントラの一つとして発売されているCDアルバム『ジャングル・ファンタジー』には同曲のアレンジバージョンが収録されています。また、海外のリミックス企画『Kong in Concert』でもアレンジされています。どちらもオススメです。海ステージでいえば『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』及び『スーパードンキーコング3 謎のクレミス島』のものも難易度が高く、またシリーズを重ねるごとにグラフィックの不気味さもより一層増しているのですが、BGMの狂気度では今作が一番かと思います。

gigadelic – teranoid feat. MC Natsack – beatmaniaIIDX 11 IIDX RED

自分は音ゲーマーであり、特に『beatmaniaIIDX』(以降弐寺)は、どんなに具合が悪くてもどんなにお金がなくても週に3回はゲーセンに寄ってプレイするほどのヘビーゲーマーでもあります。と言ってもようやく中級者の域に達した程度なのですが、その中級者にとって壁となる曲が幾つかあり、その一つがこの「gigadelic」です。弐寺には段位認定というシステムがあり、7級から1級、初段から十段、そして皆伝と、プレイの腕前に合わせたランクがあるのですが、「gigadelic」はSP八段のボスであり(つまり「gigadelic」を越えると八段として認定される)、『IIDX RED』で登場して以来、シリーズのほぼ常連として毎作プレイヤーを苦しめています。ニュースタイルガバというジャンルで、独特のハネたリズムに太いキック、クラブミュージックの中でもかなりハードな分類になるのですが、「gigadelic」の場合も例に漏れず激しいサウンドになっています。ゲームとしても、譜面が鬼のように難しく、特に終盤の、いわゆる発狂と呼ばれるトリル(鍵盤の交互連打)地帯は、段位認定に挑戦するプレイヤーを、もう一息でクリアできる、あと少し、あと少し、という希望もろとも粉砕する破壊力があります。きっと今も、どこかのゲーセンで目を回し、泡を吹いて筐体の前で倒れているプレイヤーがいるに違いありません。同じく弐寺の段位認定のボス曲でいえば、SP七段の「THE SAFARI」もかなりの難易度を誇っていますが、サウンドとしては「gigadelic」の方が破壊力があると思い、今回はこちらを選びました。ちなみに自分は八段挑戦中、「gigadelic」のリズムに乗って無心で鍵盤を叩いていると、急に変なスイッチが入って全てが楽しくて楽しくて仕方がないというトリップ状態に陥り、その後のことはよく覚えていません。口元半開きで息を切らしながら、汗だくで画面に映る合格の文字を見つめている様子はかなり声をかけ辛かったと、後日友人から言われました。

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何オタクか?と問われて、自分が唯一自信をもっていえること、それはゲームミュージックオタクだということ。幼少の頃からゲームミュージックをこよなく愛し、これまでに趣味として集めたゲームサントラ、ゲーム関連CDはおそらく500枚以上。そんな魚屋スイソがゲームミュージックソムリエとして皆さんへゲームミュージックをおすすめしていこうという個人コラム「うたうのをやめません」、テーマに沿って毎回3つほど紹介していこうと思います。第1回は露崎さんからお題をいただきました。

傷ついた心をなぐさめるゲームミュージック

エバーグリーン – 小林美代子 – 天地創造

まずはSFCの名RPGから。開発はクインテット、発売元はエニックスです。物語序盤、地裏から地上へと出た先は、ただただ荒れ果てた大地が広がり、淀んだ空気の流れる、およそ地球とは言えない、魔物以外には何一つ生命らしい生命のない世界、そこではじめに主人公は、枯れた巨木の洞窟へ向かい、植物の命を解き放ちます。すると雨が降り、タンポポが咲き、綿毛が飛んで、世界が緑に覆われていく……、天地創造はドット絵の美麗さと壮大な音楽とが相まって、演出に関しても評価の高いゲームですが、中でもこれは作中きっての名演出、名シーンなのではないでしょうか。そして場面が戻ると、枯れ切っていた巨木は青々と茂り、荒野は草原へと変わっています。そのとき流れるのが、この「エバーグリーン」という曲です。プレイヤーは、このとき初めて『天地創造』というゲームの核心に触れ、旅の目的を実感するのです。このゲームは後半になるにつれ、重いテーマが圧し掛かり、悲劇的な出来事も多々起こります、ですがこのシーンを思い出せば、きっと心は浄化されるはず。サントラ収録の、曳地正則によるアレンジ版も音色がパワーアップしていて、イージーリスニングとしてもじっくり聴けます。同タイトルではフィールド曲である「さらなる広い世界へ」、物語を進め二度目に聴いた時には涙流さずにはいられない「帰るべき所」、EDである「帰路」も今回のテーマ的にはオススメ。傷つき、心が荒んだときこそ、そうだ、地球、つくろう。

羊水の海 (夜明けの玄関 Ver.) – 奥山キイチ – 夜明けの口笛吹き

まさかのフリーゲームです。フリーゲームも好きで、特にツクール製のRPGはかなりの数プレイしたのですが、この『夜明けの口笛吹き』は自分の中で一、二を争う名作として心に残っています。システム的に目立ったものもなく、ストーリーの内容も不可解なため、いわゆる雰囲気ゲーとして処理されがちですが、独特の世界観には一口では語れない魅力があります。というのも、思い返したときに、ゲームそのものの世界観はもちろん、そこからイメージされたプレイヤー自身の世界観に、より魅力を感じるからです。なので個人的には、フリーゲームということもあり、ボリュームもさほど多くないため、是非ともプレイして自分だけの世界観を構築してもらいたいと思っています。その際は、ゲーム内の住人の台詞の端々にまで目を通すのを忘れずに。ちなみに羊水の海とは、ゲームをはじめて一番最初のマップの名前です。夜明けの玄関バージョンのBGMは物語後半に聴くことができます。その頃には、この曲に対して、ふと全てから解放されたような、そして全てを失ったような、不思議な感覚を覚えるのではないでしょうか。また動画ですが、適切なものが見当たらなかったので今回のために作成し、投稿しました。2バージョンの「羊水の海」の他に、タイトル画面で流れる「胎動の白いざわめき」が冒頭部に入っています。ゲームはこちらでダウンロードできます。音楽ファイルも一緒に入ってます。元々MIDIなのですが、自分はMP3として録音したものを今でもプレイヤーで聴いています。ゲーム製作者本人による作曲で、全体的にダウナー、その上かなり奇妙な曲ばかりです。

209ばんどうろ (昼) – 佐藤仁美 – ポケットモンスター ダイヤモンド・パール

ポケモンは『ダイヤモンド・パール』(以降DP)、第四世代において、対戦・育成環境に飛躍的な進化が見られました。またWifi対戦が可能になり、絶大な普及台数を誇るニンテンドーDSというプラットフォームの手軽さも伴って、ポケモンを単なるRPGではなく対戦ゲームとして遊ぶユーザーが増えました。中には、ポケモンのステータスの数値に細かな調整を施し、対人戦においての勝利をより確実にするために日夜ポケモンの育成・研究に取り組む人々も多くいました。彼らは普通、まず理想のステータスをもったポケモンが産まれるまで何十、何百とポケモンの卵を孵化させます。卵を孵化させるためには、マップをひたすら歩き回り、歩数を稼がなければいけません。ポケモンの卵はゲーム内の育て屋という施設で入手するのですが、このBGMの流れる209番道路はその育て屋があり、また孵化までの歩数を稼ぐためにはお誂え向きな直線的なマップ構造をしているため、卵を抱えた廃人トレーナーが自転車に乗ってひたすら往復し続ける様子から、いつしか廃人ロードと呼ばれるようになりました。かくいう自分もDPの頃からポケモン廃人でしてね。どんなに嫌なことがあっても(対戦でボロクソに負けても)、廃人ロードでこの曲を聴きながら無心でポケモンを孵化させていると、不思議とまたこれから頑張ろう(次はこのポケモンで絶対勝つ)という気になってくるのです。『ハートゴールド・ソウルシルバー』ではコガネシティと34番道路、『ブラック・ホワイト』及び『ブラック2・ホワイト2』では3番道路とスカイアローブリッジが廃人ロードとしてお馴染みですが、BGM的にはDPの209番道路が最も癒し効果が高い気がします。

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Attack
テクスチャの、繋ぎ目を剥き出しにした、実態のない部屋の、ディスプレイの顔の、スノーノイズの、手術台の上の、水性マシン、固形深海、投棄されたインスタント酸素チップ、女は処刑装置に閉じ込められ、黒い端子を膣に繋げられ、回転しながら、レーザーを発射し、全身の血を抜く音で絶頂を迎え、レーザー、青いレーザー、一種の生物発光に照らされた、箱型の深海は胎動し、破水し、

Decay
病棟は、金属の擦れる音と、それに呼応する狂人の声に包まれる、コンソールのダイアルをまわす、映写機がまわる、四つ打ちされた少女、サンプリングされた少女、スクリーン、冷たいパルスの、魚の歯の、

Sustain
ゾンビロイドが開発され、穏やかな順応の後、人間との共存に成功したが、アンドロイドのゾンビなのか、ゾンビのアンドロイドなのかは、まだわかっていない、喰うのは生物ではなく、生物によって保存された生物の媒体、しかしコーデックが無いため、テキストに限られ、これによって詩人は一時の絶滅を免れたが、次第にネットは文字情報で溢れ、文字写真家、文字音楽家、文字映像家が誕生し、蔓延し、プロトタイプの有志は集団でコールドスリープし、奥歯に毒を仕込んだ古典派は、政令指定廃墟でのみ活動を許されている、

Release
という、科学小説のページを、一枚ずつ破り、巻き煙草にし、火をつけ、レーザーに絡みつく煙が、夢を見るように、波を描くのを、うねるのを、フロアの影の、プールの底の、ソナー、フィルター、魚の尾、


http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=250354

閉熱線同人誌『青の独白』掲載
http://heinetusen.web.fc2.com/


青いビニール袋を頭にかぶった集団が
夜明けを瓶につめて持ち運んでいるのを
プールサイドの金網の隙間からのぞいている

底に沈んだラジカセのまわりには
人体模型を改造してつくった爆弾が設置されていて
わたしたちはあたらしい呼吸のしかたを考えながら
かけつけた解体班がダンスをはじめるかどうかを賭けているのだった

ぬれたセーラー服の裾をしぼると
かつてサイバーだったものたちがつぎつぎにパンクして
静脈と動脈を交互に発光させ
学校をディスコと勘違いして徘徊するようになるため
駆除隊は武装を強いられているが
酸素ボンベの供給がまにあっていないらしい

無数の端子が接続先をもとめ
カラフルな電線をのばしてゆれている

わたしはあなたをころすかわりに
肺にメタリックなみずをためこんで
宇宙人ごっこのつづきをするから
むかしの発明品をおもいだすふりをして
なにもいわずに侵略されてほしい

スピーカーがつめたい遊びをはじめる

深海魚のような機械が群れを成して
わたしのからだをすりぬけていく


http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=247931

閉熱線同人誌『青の独白』掲載
http://heinetusen.web.fc2.com/


冷蔵庫の炭酸水を飲みながら、太陽をみちづれにして水時計の中身が落ちていくのを見つめていた。むらさき色の部屋が暗くなるまで、シンセサイザーの上でダンスを踊っても、凝り固まった意識が頭蓋骨に当たる反響音で目が覚めてしまう。むきだしの矩形波が食い込んで、指に歯形を残していくが、血は出ない。おれはいつのまにかノーマライズされてしまった。おまえはいつのまにか消えてしまった。砂浜へ続く夜道を歩く。おまえの好きな歌を息切れするまでうたって、溺れるという感覚が遠のいてしまわないようにする。海を、呼吸を忘れるためのツールとしてとらえる。繋がらない番号にダイアルする。耳に当たる波のうねりと、水中で回転する魚の発光が、テクノめいた音楽になって頭の中で点滅する。水は透き通っている。すべてをさらけ出すふりをして、すべてを覆い隠している。おれは煙草に火をつけて、夜明けを待っていた。水平線にさわってみたい。おまえの肌みたいに、つめたく滑って、体温を奪ってくれるのだろうか。氷のように眠るおまえが好きだった。また、夢の話をきかせてくれ。

「冷蔵庫で眠るようになってから、皮膚が透けはじめました。色つきのソーダが、わたしを水時計にして、太陽の歯車をまわします。むらさき色に渦巻いて、鍵盤の上で踊るあなたの指に噛み付いたときの、電子音の味が好きでした。ディレイというエフェクターが好きでした。イコライザーをやりたい放題いじって、あなたによく叱られました。夜になると、あなたは携帯電話を飲み込んだわたしを連れて外を歩くのです。砂浜までの一本道を、一緒に歌をうたいながら、歩くのです。海へ潜って、あなたが電話をかけるのを待って、わたしの毛細血管や筋肉組織の中を、イルミネーションにまみれて、魚が泳いでいるのを眺めながら、呼吸を忘れないためのおまじないをします。水中に沈むことと、凍りつくことの違いを教えてください。あなたはわたし越しに夜明けを睨んだまま、かえってきません。わたしの向こう側から、かえってきません。あなたの吐く煙を、吸い込んでもいいですか。今朝は、冷凍庫で眠ります。あなたがわたしを起こす頃には、つめたい結晶になっているでしょう。夢の話を、きかせてあげます。」


http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=239202

閉熱線同人誌『青の独白』掲載
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冷透

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「もしあたしがゾンビになったらどうする」
「うっかりちんこから食ってもらう、じゃあもしおれがゾンビになったら」
「ぶち殺す」

おまえの人生テクノポップ!おまえの人生チルアウト!おまえの人生ドラムンベース!おまえの人生ハードコア!ってののしりながら、蛍光色の内臓みたいなのがついたでかい水鉄砲でメロンソーダ撃ちあってギャングごっこする動画を撮ってアップロードしたら、数日で権利者とやらに削除された、うしろで流してたレザボア・ドッグスのオープニングがアウトだったらしい、権利者ってだれだ、ミスター・ブロンドか、ごりっごりの電子音でダンスしながら拷問するのか、煙草がなくなったから買ってきてくれよ、あとガリガリ君以外のアイス、なあ、きこえてる、おまえがいまお洒落なエレクトロニカかなにかと勘違いしてヘッドフォンできいてるそのトラック、おまえの喘ぎ声のリミックスだから、ついでにおれの罵倒文句も足してあるけど、おい、きこえてるのか、応答しろスネーク、権利者ってだれだよ、箱男に出てくる女教師か、ドアの向こうでピアノの鍵盤に股間こすりつけてるのか、貝殻草スニッフしたらおれも溺死する夢みれるかな、こないだのおまえのオバンバのコスプレ似あってたよ、今度おれタール・マンやるよ、墓地でセックスしようぜ、バタイユの小説みたいにさ、舞城は人間が死んだら煙か土か食い物になるって言ってるけど、ゾンビはどれに分類されるんだろうな、はやくコンビニ行ってこいよ、パンツ見えてるよ、おれは死んだらどれになれるんだろう、死はけっこうシリアスにやってくるかもしれないけど、シリアスに死ぬとおもってるやつはばかだ、クサレ脳みそだ、大真面目に死にたいとおもってるやつはいますぐ死ね、べつにたいしたことじゃない、口にできる時点で死は喜劇名詞なんだよ、いくら死にたいって言っても言われても死ぬことや死なれることを体験できるわけがないんだよ、それはフィクションだ、恋人が死んで後追い自殺なんて最高にハッピーエンドじゃないか、こないだガリガリ君のアタリが出るまで食べ続けたら凍死しかけた話ってもうしたっけ

「煙草買ってきたよ、ジャンプとヤンマガとスピリッツも」
「いいから脱げよ」
「いま生理中」

おまえのゲロ吐く前後の顔がすき、もうすぐ夜が明ける、どっちがさきにゾンビになるか勝負な


http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=237136

閉熱線同人誌『青の独白』掲載
http://heinetusen.web.fc2.com/

ゾンビポップ

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2013年5月12日日曜日

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 鍋に水を張って、冷蔵庫で体育座りしたまま眠っていた彼女を沈めて、煙草に火をつけた。彼女の、絶対に笑うことのない冷徹な唇が好きだった。肌はミルクとピンクソーダがマーブルに渦巻いていて、まるで雨の日の窓ガラスを反転させたような表情をしている。火にかけると、首筋や肩や鎖骨の溝や二の腕に、薄桃色の水滴がたくさん浮き出てくるようになって、顫動しながらある程度の大きさまで成長した途端、次々に割れていく。プチプチしたグミかあるいは魚卵が、彼女の肌で産まれたり爆ぜたりしている。水面に広がった彼女の長い黒い髪が、先の方から色がなくなっていくのを、おれは煙を吐きながら観察していた。高熱で液化するどんな金属よりも穏やかで、高温で茹でられるどんな食物よりも蕭やかだった。飾らず、光らず、無表情に滾っている。水が沸騰する頃には、ほとんど体中が透き通ってしまっていた。全身を今にも敗れそうな膜にしていて、中の心臓や子宮や卵巣がゆっくり踊っているのが見える。フォークを握って乳首を突っつくと、半熟の黄身みたいなトロトロの液体が、上擦ったように酸っぱい色をしてドクドク出てきて、おれは彼女を破くことと、破かれた彼女を観察することに夢中になった。咥えていた煙草の灰が落ちたが気にしていられなかった。彼女は溺れながら、股の間に右手をやって、左手で破裂した乳房を支えながら熱湯の中で煩悶している。身をよじって震える度に、彼女の飛沫が散って、おれの眼鏡のレンズにまで付着した。それを人差し指と中指で塗り拡げると、視界が染まって、目に映るもの全てがおれに恥じらいをもって紅潮しているように見えた。煙草を踏み潰して、かわりに二本指を揃えてにおいを嗅ぐ。舐めると苦かった。彼女は自分の体液を飲み込みながら、顔を歪めたり緩めたりして、ピンクの涙とピンクの鼻血とピンクの涎を垂らして痙攣していた。沸騰した彼女の溶液が次第に気化し始めいて、部屋中が喘ぐようになっていた。乳首と膣から、彼女の中身がすべて放出し、火を止めて鍋の中をかき混ぜると、二つの眼球だけが浮いているだけで、他は何も残っていなかった。スプーンで掬って高く掲げると、蜂の蜜のように糸を引いて、それを落としたりまた掬って掲げたりを何度か繰り返しているうちに、加虐的な気持ちになっていく。皮膚感覚が遠のいていっている。膨張した神経がひしめきあっている。眼球を噛み潰して、まだ熱い半透明でピンク色の液体を、両手で掬って飲む。吐きながら飲み下す。舌が痺れて粘膜が爛れて眼窩が甘ったるくて、脳みそがずぶ濡れだった。体温の上昇や感情の高ぶりと同時に、途方もない落胆を、排水溝の栓を抜いたときの渦巻くような喪失感を、おれはハイスピードで味わっていた。射精に似ていた。ピンク色の、無口で伏し目がちな射精だった。キッチンは焼け付くような静けさの中で、焦げることも凍ることも許されないまま諦観めいた沈黙を決め込んでいた。おれは唇から溢れた彼女の溶液を自分の裸に塗りたくって、残りをプラスチックの水鉄砲に詰めて、銃口をしゃぶりながら、引き金を引いて、


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 食虫植物ズというノイズバンドでいつも弦の足りていないギターに傷を付けたり付けられたりしていた彼女が今日のライブ中に死んだ。おれは隣で彼女が書いた「子宮なんかいらない」という歌を叫びながらベースアンプに頭突きすることに夢中で全く気が付かなくて、曲が終わってもずっとギュキギュキ鳴るものがあったからまた弦が喉に刺さって抜けなくなったのかと彼女の方を見たら四フレット辺りを噛み締めたまま失神していた。右眼だけ真ッ白で綺麗でおれは自分の額から垂れた血が眼に入るまで痙攣する彼女のつるつるの眼球に魅入っていた。
 十五人ほどの客がみんな引いた後、天井の低くてやたらでかい柱が邪魔な楽屋に戻って彼女を何度か揺さぶってみたが、ピンク色の泡立った唾液を口の端からこぼすだけで右の眼は相変わらず白いままだった。こりゃ死んじまったなとかこれからバンドどうしようかとかとりあえず明日のライブでは木魚使おうとか考えながら、半裸の彼女とギターとベースを背負ってライブハウスから地上へ出る暗い階段を上った。
 途中ふら付いて歯を折って、外に出ると吹雪で住んでいるアパートまで行くには電車に乗らなければいけなかったし駅までは遠かったしポケットには自分の歯と二百八十円しか入っていないしそもそも今が何時で終電が何時だったかもわからなかった。何より寒いのがいけなかった。
 路地に入ったがまだ寒かった。死んでいるのか死にかけているのか死にたがっているのか判断できない外灯が数メートル置きにゆらゆら立っていて下を見ていて、それ以外に光源の無い暗い路だった。そこで初めて自分の息が白いのに気付いて、まるで冷気を吐き出すマシンの心地だった。積もった雪が足の裏でゆでキャベツのような音を立てていて気色がわるい。拷問器具に抱かれているような寒さ、こいつらも金属だな。右足のブーツの先の剥がれたソールの隙間に空いている穴から恐ろしく冷たいマムシか何かが潜り込んできていて牙を立ててぎゅっと噛み付いて白濁の毒を指先に流し込んでいるが、彼女の好きな「局部麻酔少女図」という食虫植物ズの歌を歌いながら堪えて歩いた。おれはきっとジュークボックスと冷凍庫のあいのこだ。キャベツ畑を冷たいマシンが行く。
 腹が減った。野良猫の鳴き声がして、立ち止まるともうだめだった。黒々に固まってしまいそうで、ギロチンめいた風がよく効く。彼女の長い黒い髪を首元に巻き付けるが微塵もあったかくない。
 野良猫の姿は見当たらなかったから替わりに雪をすくって二三口食らい、回転しながら立ち小便をして、ここからここまでおれの陣地、そのいびつな領域の中にギターとベースを並べて置いた。寝台のつもりだった。彼女をその上に横たわらせ、おれもそこへ覆いかぶさって寝ようかとして、小便ではなく水の腐ったにおいがして、再び身を起こした。頭上を見ると青いブリキの看板に掠れたクリーム色のペンキで「魚屋ハッピーハッピー」と書いてあった。
 シャッターを叩いた。四十回くらい叩いて音沙汰が無く、右肩に担いでいたベースを振り上げて、振り下ろしたら、シャッターに裂け目が走った。ネックを握り締める手のあかぎれの肉の中に回転ノコギリじみた砕氷が入り込んできていた。おれはがむしゃらに叫びながら何度もベースを振り下ろした。最初缶切りの要領で徐々に穴を拡げようとしていたのだが途中から歪み始めて綺麗な円にはならなくなったので無茶苦茶に振り回していたらシャッター以外のものに当たったらしくベースが折れ、おれはよろめいて雪の上に倒れた。
 鼻水をすすって起き上がるとすぐ側で店主らしき老人の頭蓋が割れていてそこからやわらかな湯気が立ち昇っているのが見えた。大根おろし器のようになっている手先を老店主の蒸気にかざして血を通わせた後、再び彼女を抱えギターを背負いベースを引き摺って店の中に入った。
 菌類細菌類微生物だらけのにおいが店のコンクリートの床の上に沈殿してひしめいている。血の通ってない蛍光灯の下、何か食べる物は、と思ったが真ッ緑の水槽が幾つかビーと唸っているだけで魚らしい魚は見当たらない。側面を油絵の具で緑く塗りつぶしてあるかと思うほど藻のこびり付いた水槽の一つを覘き込むとシマシマの小さい魚がびっしり浮いていてワニの内臓のような悪臭が鼻を突いた。
 ハハンここ魚屋で無しに熱帯魚の類を売るショップかと、絶望的な笑いが込み上げてきてウフッて声が漏れてそのウフッの響き方が妙に啓示的で、このモーター音に似た懊悩から解脱させてくれるような厳めしさすら感じられて、しばらくおれは彼女を抱きながらウフッを連発していた。
 それにも飽きた。胃が痛くなってきた。店の奥はそのまま住居になっているらしく、戸を開けると廊下の向こうに障子が見えた。中は居間とひと続きになっている厨で、ブーツのまま上がり込むと床板が軋んだ。電灯をつけたかったが何度ヒモをカチカチしてもつかないのでいったん彼女をちゃぶ台の上におろし、無心で流しの傍にある冷蔵庫の扉に手をかけた。開けた途端、夥しい量の、ちぎれたゆで麺のような虫とその死骸が糸を引きながらなだれ落ちてきて足元に積もり、土と肉の混じった茶色いにおい、扉を閉めようにも隙間にスジコのようになった虫の塊があってぶよぶよと反発する。諦めて退避することにした。
 暗くてよくは見えなかったが、改めて目をやるとコンロには発酵物の溢れ出ている鍋とフライパン、流しには黒カビが蔓延していて、口にできそうなものは何一つ無く、寒気と悪臭で空きっ腹は収縮しねじれていくばかりで、おれは口腔内に圧搾されて出てきた黄色い胃液をこの台所に渦巻く不穏な巴の中へ吐き付けるくらいしかできなかった。咽喉の奥から空気の抜けるようなエエエッという音がして後には唾液も出てこない。一体あの老店主はどうやって生活していたのだ、はじめから死んでいたのではないか、と考えてから背負いなおした彼女の指を二三本噛み締め、流しの下にあった包丁だけを手に取って居間へ移動した。
 仏壇の前に座し、ギターとベースを裏返しにして置いた。今度はまな板のつもりだった。彼女を仰向きに横たわらせて下腹部に包丁を突き立てる。きらきらの肉が見えた。血が水彩絵の具みたいに滑って拡がっていく。彼女の足を開いて、性器の少し上の箇所の、あたらしい穴にくちづけをした。子宮は薔薇色に震えている。
 眼球を引っこ抜いた。ライチ色に発光していて、滴る液体からはいいにおいがした。二つ頬張って噛むと、網膜がやぶれてとろとろの硝子体が溢れ、口の中がいっぱいになった。舌先を動かすと水晶体が歯茎と下唇の隙間でぬめった。空っぽの眼窩に中指を刺し入れ彼女の頭の中をまさぐる。グルグルの脳みそ、爪の間に挟まったネバネバのカスみたいなのを舐め取ってまた眼窩の穴を拡げる。涙骨は窮屈だったが指先を髄膜に食い込ませ、やわらかい部分を掴まえて引き摺り出した赤黒い脳みそに吸い付くと多幸感に満たされた。射精していた。まったくいい女だった。
 彼女の小さな胸を眺めながら、血が冷えて固まってくるまで、あまりに穏やな、色つきの水を凍らせたようなカラフルで圧倒的な時間がすり抜けていくのを全身で感じていた。ライブハウスのステージの上にいるときの感覚とも似ていたし、それとは全く対極にある気もした。水槽の向こう側を見るような心地だった。どっちが中でどっちが外かはもうどうでもよかった。ただガラスと水があってそこを透き通る光が屈折してさえいればよかった。
 仏壇を開くと木魚があった。ベースは折れてしまったしギターはもともと弦が足りていないので、いまのおれにはこれくらいしか弾ける楽器がなかった。凍えながら木魚を叩いた。彼女のつくった歌を叫びながら、もし、もし夜が明けたらここで木魚屋をやろうと思った。木魚屋の食虫植物ズだ。木魚を叩く度にカミソリが舞うような耳鳴りがした。フォークやナイフが耳から脳へ刺さる音がしている。これはエレキ木魚。アンプは彼女の子宮。繋いでいるのはおれの精子。屈折して透き通って、向こう側にも伝わる。


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閉熱線同人誌『青の独白』掲載
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木魚屋

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 扇風機の駆動音と、蝉の声に紛れて、水の音がしている。彼はブリキのコップの中で魚眼を飼っていた。寝返りをうって、バタイユの文庫を相手に呪詛のような言葉を呟いている。彼女は何もきこえないふりをしながら、脱ぎ捨てられた制服と、イアフォンを耳につっこんで背を向けた彼の裸を傍目に、理科の教科書をめくっていた。乾燥した精液で貼りついたページを剥がす度に、少し嗜虐的な、プールサイドに寝そべった校舎の影が夏に焼かれているイメージが、爪を立てて、皮膚の裏側をなぞる。彼女はプールの授業がきらいだった。カルキのにおいと、クラスメイトの濡れた肌と、何よりそれらと一緒に同じ水へ潜るという行為に、言いようのない嫌悪感をいだいていた。口の中が乾いている。振り返って、彼に声をかけようかとしたが、しなびた舌が思うように動かず、再び視線を教科書へ戻すことになる。赤と青で塗りわけられた心臓のイラスト、電圧計と電流計のマーク、正しい順番に並べられた細胞分裂の写真、駄菓子屋で売られているみたいなBTB溶液の色、周期表、分子モデルの模型、アンドロメダ銀河、レーウェンフック、受精卵。彼女には唇から剥がした皮膚を咀嚼する癖があった。噛み締めた時に分泌される唾液の味と、細胞の死臭とが喉の奥で混ざり合い、全身を廻って、あらゆる粘膜に付着する。双子葉類の茎の断面、銅と硫黄の化合、位置エネルギーと運動エネルギーのグラフ、ムラサキツユクサの染色体、凸レンズ、プロミネンス、オキシドールと二酸化マンガン。ベッドのスプリングが軋んだ。彼がこっちを見ている。額の汗で濡れた前髪の奥から、4Bとか6Bの鉛筆で塗りつぶしたような、光のない目が覗いている。喉が渇いた、と伝えると、彼はうつ伏せになってベッドの下に手を伸ばし、コンドームの口を解いて彼女へ投げた。セキツイ動物のなかま、と見出しのあるページの、魚の写真がこぼれた精液でまみれる。急にまた、扇風機や蝉や水の音が、うるさく、粘っこく彼女の裸へまとわりつき始めた。彼女は理科の教科書と、窓際に置いてあったコップを掴んで、浴室へと走った。彼は再生の止まったイアフォンを引っこ抜いて、開いた状態で伏せられていた文庫本を拾い、立ち上がる。蛇口を閉めたときの、小動物の悲鳴に近い音がきこえる。彼女は床の青いタイルへ膝を突き、理科の教科書を浴槽へ沈めていた。シャワーヘッドで水をかき混ぜると、波打つ教科書のページから卵白のような精液がひろがって、毒にやられて死ぬ間際の、ダンスに似た伸縮を見せるようになる。コップの中身を放流する。無数の魚眼が旋転しながら、精液に絡みつかれて沈んでいく。嗚咽する彼女の後ろで、扇風機の駆動音と、蝉の声に紛れて、文庫本が床へ落ちた音がした。


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閉熱線同人誌『青の独白』掲載
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去年の冬コミでSKETCH UP!から出た『FirstDate』というアルバムに「PooPooHoney」という曲が入っていて、それの後半のメインフレーズに使われているメロトロンみたいな音色のメロがすごく好きなのだけど、きのうメロトロンという単語が出てこなくて友達にメタトロンって言ってしまって、ついペルソナを召喚してしまった魚屋スイソですこんばんは。最近aran氏の曲をよく聴いてる。

詩とか書いたものをここにアップしていくことにした。このブログ右側のサイドバーにあるCategoryからworksの中の詩の項目を選んでもらえれば一通りでてくるはず。ほぼ現代詩フォーラムの転載になるだろうけど、何日かかけて今あるのをアップしていく予定、とりあえず今日は3編。どれもハタチくらいの頃に書いたもの。

ただこのブログのカラーとしてはゲームだったり音楽だったりするのかな、詩というジャンルがそういうものと並立するのは難しいのかもしれない。でもどれも自分から切り離せないものなので、すべて魚屋スイソというくくりで見てもらえると助かる。詩がサブカルチャーの方にすり寄ったりそれと迎合したりする必要はまったくないと思っているけど、いくらなんでも遠ざかりすぎてる気がする。こないだ大学で、演劇の先生が詩という単語を口にした瞬間講堂に沸いた嘲笑がかなしかった。

ところで、今年のポエケット(詩中心の文芸同人誌即売会)は7月7日開催らしい。あなパイでは、8人の詩人の詩を載せた同人誌を出す予定なのだけど、それの〆切が今月末なのよね。それまでに100行程度の詩を書かなきゃならないのだけど、『あるところに、vol.2』に寄稿する詩の〆切と被ってしまって、しろめ。発表が夏なので、夏っぽい詩が書けたらいいな。

ひとりで踊る

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2013年5月9日木曜日

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「水にならなければいけない、氷になるため、黒い液体の注がれた水槽に、地球は浮かんでいて、回転すると、ぬれた部分が夜になるから、ここで、産んでもいないのに死んでいて、生まれてもいないのに殺されていて、わたしは、泣いてもいないのに」

サンズイに夜で液、これを考えたやつは天才だとおもったけど、ぼくらはイメージにひっぱられすぎていて、あしのうらをねばつかせたまま、モチーフだけを氾濫させて、さらわれようとするから、飽和できずに、ぬれ続けるしかない

おやすみ、おやすみ、おやすみ、ほんとうにそれは、溺れる合図なのだろうか、安易に泳ぎたくはないけど、沈むことを正しいともおもいたくはない、夜とうまくつきあえない、ふりむいてほしくもない、融点を背にして、凝固点だけをみつめている、きっと殺意のなくなった瞬間に、殺してしまう、水位を上げれば、体温が下がることを覚えてしまった、区別がつかなくなってしまった

メロンソーダに魚眼をフロートさせて、保健室や理科室をのぞく、きみを殴って、血のついたアイスキャンディーをしゃぶって、夜をぬらす、アタリは出なかった、ジャムも、ゼリーも、すきとおるふりをするためのツール、ぼくは淡水に恋をしている、きみは海水に呼ばれている、数学のノートにかいた宇宙人を増殖させて、学校を襲うようにしむける、すいせいの生物になりたい、こうおんの動物をやめたい

「ふりはらったものばかりほめられる、欠落しないで、遠い、考えない、やめてよ、やすっぽい喪失で、わたしに堆積するものは濁っていてもいいけど、ゲロだけは、うつくしいから、排水溝になって、タイムマシンが完成したら、わたしが少女として呼吸をするまえに、絞首して、きれいに絶えてしまったら、胎児として脈をうつまえに、もう一度絞首して、嘘です」

(水びたしのきみをみるたび、きらいになった、死んでほしい)

からだじゅうに、つめたい電気を塗りたくって、ビームをはなつ、しきゅうとか、ちきゅうとか、そういう音で

suicideって、水辺のことだとおもってた、きみと同じ歳のころ


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 手術室を溶かしたような色の、底の見えない湖へ知らない女と入水する夢をみていた。泳ぐつもりだったのか溺れるためだったのかはわからないが、女は幸せそうな顔をしていて、おれはそれを見ていたくないがために、水面に浮かぶ植物の死骸が回転するのをずっと眺めていたことを覚えている。岸に群生している花だろう。水に濡れ、腐敗しかけてはいるが、踊り子のような花弁でおれを見つめ返している姿は劣らず凛々しい。そのあと女とどうなったかは覚えていない。二人で沈んだのだろうか。水面の花は、温かい動物の皮を剥いだときに見える肉と血の色をしていた。
 むき出しの水道管と女の首輪とをつなぐ鎖の音で目がさめる。外は雨らしい。時計がないためこの薄暗さが朝なのか夜なのかはっきりとは判断できないが、眠りにつく前よりいくらかは明るい。ベッドの下に落ちている煙草の箱に手を伸ばす。部屋のものすべての輪郭が消えかかっている。テーブルの横には女の服と下着とが丸めて置いてある。いったい何日が過ぎたのだろうか。上体を起こし煙草に火をつける。おれはこのワンルームの浴室で、女を飼っている。
 向こうもこちらが起きた気配に気がついたのだろう。浴槽に鎖を打ち付ける音がいよいようるさくなる。冷蔵庫の前まで歩き、中の袋を手に取る。おれは女を飼う際に二つだけ命令を与えていた。決して声を出してはいけないことと、おれが与えるトマト以外のものを口にしてはいけないことと。浴室のドアを開け、シャワーカーテンを退ける。両手足に枷を嵌め、首輪から鎖を垂らしたトマトまみれの女が仰向けになっておれを睨んでいる。黒髪の張り付いた頬を強張らせ、爛れたように赤い口元と胸とを震わせている。おれは昨日トマトと一緒に置いておいた食べかけのジャムトーストが見当たらないことに気がついた。女に問い詰めると、食い縛っていた歯を鳴らして何か呻くように二言三言短い声を発したが、慌てて口を閉じた後はそれ以上の挙動を見せようとしない。メンソールの煙に混じって、鬱屈した思春期のような酸っぱいにおいが鼻をかすめた。おれは袋の中のトマトを一つ掴み、首輪の鎖を引いて突き出てきた女の口へそれを押し付ける。見開かれていた女の目に潰れたトマトの中身が飛び散る。女は首を振りながらも、必死に相槌を打つようにしてトマトを飲み込もうとするが、そのほとんどが胸の上か浴槽へと吐き出される。それは構わなかった。この後この女は、浴槽の底を舐めずってトマトの残骸をかき集めることになるのだから。煙草の火を消し、その様子を眺めながら再び袋の中に手を入れて反応を伺う。呼吸を荒らげこそしているものの、声らしい声を発さないことに感心したおれはまだ欲しいかと訊ね、やや小さめのトマトのヘタを摘まんで女に見せる。真っ白い肌が紅潮したように濡れている。
 女を浴槽の縁へ座らせ、足枷を外してやる。足首は黒ずみ、爪の間にはトマトの皮が挟まっている。太腿に手をかけ脚を広げる。女は上半身を捻らせおれから目を背けてはいるものの、それ以上の抵抗を見せようとはしない。弛緩し切った手足が小さく震えている。恐らくこれから起こることを想像し、恐怖と期待の混じった恍惚で思うように力が入らないのだろう。薄ピンク色の唾液が顎を伝って垂れ落ちる。おれは声を出すなよとだけ女に伝え、摘まんでいたトマトを膣口へ宛てがった。首の後ろで交差していた腕が浴室の壁を叩く。爪先を伸ばし、脚の付け根を痙攣させてのた打つが、構わずトマトを押し込んでいく。おれは発光する肉の中に埋もれていくトマトを見つめながら、夢でみた花のことを思い出していた。もしあの花が人を喰う植物だったら、迷わず喰われにいくだろう。言いつけ通り声を押し殺して喘いでいるこの女や、すべてを諦めたように笑っていた夢の女よりも、美しい花だった。
 赤子の拳ほどあったトマトがすべて膣内に収まる。女は失禁していた。おれは顔にかかったものを拭いながら、膣口からトマトのヘタを生やし未だ身体を顫動させ続けている女を見下ろしていた。まるで新しい臓器だった。トマトは子宮の傍でこれからも脈打つのだろう。そして女は、我が子に対するような愛情でそのトマトを慈しむに違いない。急にそれが憎らしく思えてきた。おれは袋の中に残ったトマトを掴んで女へ投げ付ける。女の額や頬や首筋に、胸や腹や太腿に、濡れた花が燃え付く。女は気を失っていた。浴室は静まり返っていた。雨は止んだのだろうか。おれは振りかざした腕を下ろし、その手に残った最後のトマトを見つめた。もう女はいない。おれは湖には沈まない。トマトを両の掌で包み込み、潰し、その中に顔を埋める。死んだ踊り子が、羽ばたくように回転している。


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 きもちよかったから授業が終わったあともふやけるまでプールの底で自作のテクノポップ歌ってたら初潮がきちゃって、ドリルみたいに。あまりに前衛的でショックで水がピンクで、ねばねばしてるのをだれかに伝えたくてプールから出たんだけど、女子更衣室バリ封されてて入れなかった。中から委員長の酸っぱくて生ぬるいアロエドリンクみたいな喘ぎ声が聞こえてて、それが授業前に見た彼女の水玉のパンツと大人のブラだけにじゃなくて自分のお気に入りの白いハイソックスにまで染み込んでいってると思うと口の中がにがにがした。
 仕方ないから教室めがけてスクール水着のままひとひとと歩き続けた。塩素と女の子のにおいのするピンクの水滴らせてるおしゃれなわたしをみんなに見てほしかったのに、東館の二階の廊下は死体だらけでだれもこっちを向いてくれなかった。しかもみんな顔の穴と性器を中心に鉄タマゴに寄生されててすごいキッチュ。ピンクよりメタリックのほうがおしゃれに決まってる。くやしくて泣きそうだった。思わず死体を蹴った。先輩だった。眼鏡の奥で鉄タマゴがきらきら光ってた。
 先輩の眼鏡を借りて、片方のレンズに出てきたばっかりの血を塗ってみた。青色が足りないから、3D眼鏡にはならないけど、かけるといい気分がした。そのまま歩き続けた。
 教室についた。相変わらず廊下は死体だらけだった。でももしかしたら教室ではいつも通り授業をやっているかもしれないから、中へ入るには、いい子ちゃん風、はぶられ子ちゃん風、ったくかったりーぜ子ちゃん風、どれかを装わなくてはいけなかった。けど逡巡していて気づいた。わたしスク水だった。しかも初潮がきたばっかりだから、みんなわたしのことしか考えられなくなって授業ジャックしちゃうかもしれない。国語の時間だったらいいけど、確か今は数学の時間。連立方程式がわからなくなってしまうのは将来困る。だからわたしは滅却した。煩悩ゼロ子ちゃんという名の透明人間になった。ドアを開けた。いきなり襲われてしまった。わたしはだれにも見えないはずだったのに。ガスマスクの男に押し倒されて馬乗りされて腕押さえつけられてスク水のままレイプされた。もしかしたらこの男のガスマスクのゴーグル部分に赤外線センサーでもついているのかもしれない。でも煩悩ゼロ子ちゃんはなにも感じてはいけないと思ったからそのまま犯され続けた。気持ちいいとか痛いとかはどうでもよくて、ただ、さっき初潮がきたばっかりなのにもうレイプされてるとかわたしビューチフル極まりないとつい思ってしまって、煩悩を滅却するのは難しいなと感じた。
 だれかの絵の具セットが床に落ちてた。18色セットだった。わたしのは12色セットだったからいつも肌色をうまくつくれなくて困ってたのを思い出した。私を犯している男はガスマスクを装着してて、夏なのに学ランで白い手袋をつけてたから肌の色はわからなかった。もしかしたら虹色の肌をしているかもしれない。12色だったらいいな、とか考えていたら顔射されてた。顔射というより眼鏡射だった。先輩の眼鏡は私の経血とこの男の精液とでべとべとだった。天井がいちごミルク色になって見えた。教室にはスク水のわたしとガスマスクの男以外だれもいなかった。黒板には自習って書いてある。頬に飛び散った精液を拭いながらセックスは自習じゃないだろってこの男に言ってやったら、ガスマスクをシュコーシュコーさせながら、教師が教えなてくれないことを生徒同士でするのは自習だろって返されて不覚にもときめいてしまった。性器は虹色じゃなくてピンク色だった。チャイムが鳴って四限が終わった。
 ガスマスク男によると、学校には処女と童貞にしか効かないウイルスが撒かれたらしかった。今頃他の教室でも生徒同士が鉄タマゴに寄生されて死ぬのが怖くてセックスしているのだろう。先輩は童貞だから死んでしまった。わたしも危ないところだったらしい。初潮が来た日に処女消失しちゃうなんて死んでもいいなと思ったけど、少しだけ自慢してやりたい気にもなった。さし当たってガスマスク男にそのことを伝えたら、おれもはじめは死にたくない一心でおまえを犯したがスク水の女の子とセックスできたのだからもう死んでもいいって。わたしはべつにガスマスク男とセックスしたかったわけじゃなかったけど、それを聞いたらやっぱり死んでもいい気がしてきた。死ぬのが楽しみになってきたと言ってもいい。初潮が来てしまって、処女膜を失ってしまって、そしたらもう死ぬくらいしかできない。14歳にして真実を悟るなんてわたし偉い。
 屋上に向かうと、すでに生徒の列ができていた。少し先に委員長の姿もあった。男子と女子が手を繋いで次々に飛び降りていく。きっと校庭は砕け散った死体だらけになってる。わたしもガスマスク男と手を繋いだ。もうすぐわたしたちの番だった。生乾きのスク水が肌に張り付いてスースーした。フェンスを跨いで下を向いたら、先輩の眼鏡が先に落ちていった。


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5月4日、行ってきました。二度目のタノシー、二度目のウーム。
http://tano-c.net/tour2013/



ゲストはkors kとDJ SHIMAMURAでした。フロアの熱が一気に上がるのがわかるくらい凄かったよこのふた組。個人的にはaran氏とDJ Myosuke vs MNKのターンがアツかったなあ。ノライケンはヤヨイケン。Sakura Tr!ckうたうとき「ウェ」でも「ウォ」でもない不思議な発音が自然と出てくるから特許とったほうがいい。49月49日はSigSigの日らしいけど計算すると1月18日だったよ。良い歯の日。イーハー!赤い人がVEGA流した瞬間みんなグリコポーズで踊り始めて両腕が乱れ飛んでた。そして火星へ。

TANO*C TOUR 2013 渋谷WOMB

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2013年5月6日月曜日

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4月まとめ

connective 【SPH☆6】 FULL COMBO
ILIAS 【SPH☆7】 FULL COMBO
Darling my LUV 【SPA☆8】 FULL COMBO
Deceive Your Insight 【SPH☆8】 FULL COMBO
ALL I NEED YOUR LOVE 【SPA☆9】 HARD
Kailua 【SPH☆9】 EX HARD
SHOOTING STAR 【SPA☆9】 HARD
STARS☆☆☆ (Re-tuned by HΛL) -IIDX EDITION- 【SPA☆9】 HARD
VEGA 【SPH☆9】 EX HARD
WE LOVE SHONAN 【SPH☆9】 HARD
ミラージュ・レジデンス 【SPH☆9】 HARD

地道なフルコンとハード埋め。☆9全白目指したいなあ。

1st Samurai 【SPH☆10】 CLEAR
Hardcore Mania 【SPA☆10】 HARD
Hydrogen Blueback 【SPA☆10】 HARD
Saturn 【SPH☆10】 CLEAR
Timepiece phase II 【SPH☆10】 CLEAR
Timepiece phase II (CN Ver.) 【SPH☆10】 CLEAR
THE BLACK KNIGHT 【SPH☆10】 HARD
TROOPERS 【SPH☆10】 HARD
V 【SPH☆10】 HARD
Xepher 【SPH☆10】 HARD

タイピ難すぎわろちん。CNじゃないほうのは1P鏡が当たりに感じた。大好きなハイドロさんもハードできて満足。TROOPERSは久々にやったらBPが50くらい減った。

RESONATE 1794 【SPA☆11】 EASY
Saturn 【SPA☆11】 EASY
カジノファイヤーことみちゃん 【SPA☆11】 EASY

ことみちゃんの破壊力。

四月入って忙しくなってあんまりゲーセン行けてない。BEMANI学園はまだ一曲も解禁できてないけど村井さんともすけべコンビが一番楽しみ。

じゃあ俺、外野がいいや!

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2013年5月2日木曜日

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